BUMPとアイマスの親和性について真剣に考える
先日、とあるライブツアー公演がありましたね。多くの人が高い倍率に嘆き悲しみ、ステージの上では複数人が入り乱れて一瞬の煌めきを走らせ、観客席は暖かな光で包まれた、あのライブ……
そう、
BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark
ナゴヤドーム公演 9/21,22
ですね。
……というわけで、今回はBUMP楽曲特集です。BUMPファンが、BUMP楽曲とアイマスの親和性について真面目に考えてみました。
(御託は良いのでとりあえず楽曲リストだけ見たい、という方は「2. 楽曲紹介コーナー」まで飛ばしてください)
1. BUMP OF CHICKENとは?
BUMP OF CHICKEN official website
「そもそもBUMP OF CHICKENについてよく知らない」という方のために、簡単なバンド紹介を。
藤原基央(Gt.Vo)・増川弘明(Gt)・直井由文(Ba)・升秀夫(Dr)の四人からなるロックバンドで、通称は「バンプ」「BUMP」等(当記事では以下BUMPと呼称。各メンバーも敬称略)。ジャンルとしてはポップ・ロック、オルタナティブ・ロック等と称されます。楽曲のほとんどを藤原が作詞作曲し、その楽曲達が形作る独特な世界は昔から多くの人を虜にしています。メンバー全員が幼馴染というかなり珍しいグループで、今でもメンバー間の仲はめちゃくちゃ良いです。四十路のおっさん達なのに。そんなメンバー間の微笑ましいやりとりを見てファンははしゃいでます。四十路のおっさん達なのに。
ライブ中に気に入らないことがあると観客と喧嘩したり、挙句の果てにライブを途中で中断したり。「ブラウン管の前で評価されたくないから」「手拍子なんかしてんじゃねえ、一緒に合唱なんかしてんじゃねえよ、演歌じゃねんだから」*1等、ネットでもいまだに取り沙汰されるような過激な行動・発言も初期には見られましたが、それらは後に藤原が
すごく不安です。小心者です。ずっと昔からです。若い頃はこんな自分をごまかすため虚勢を張って大口叩いたりしてました。バンド名にもある通り、チキン野郎です。
藤原基央(2012)「Fujiki」第100回、『B-PASS』2012年6月号
と語る通り、まさに臆病者の反撃(BUMP OF CHICKEN)という名の通りの、精いっぱいの強がりだったのでした。ここ最近はすっかり丸くなり、サウンドも初期のような荒々しさはありませんが、歌詞にはあの頃の刺々しさが垣間見えることも。今年で結成23周年。
さて、どうして記事の主題にBUMPを選んだの?というところですが、筆者自身がファンであるということ以上に、BUMP楽曲とアイマスの親和性がとても高い、という点が大きいです。そもそも彼らの楽曲、つまり藤原が作る楽曲は、物語性が非常に高く、また人と人との関係性に主眼をおいた楽曲が多いのです。この人と人との関係性という部分は、そのまま「アイドルとプロデューサー」に置き換えられるし、「アイドルが見ている世界」にも置き換えられる。また、普段なかなかスポットの当たらない人達、必ずしも主役とは呼べない、社会のはみだし者とも言えるような人達にスポットを当てた楽曲も多く、昔から彼らの楽曲は、「この世にいる誰かに優しく寄り添うことができるもの」でありました。この“誰かに寄り添うことができる”という点は、BUMPの真骨頂と言っても良い点であり、バンド創設期より、常に誰かの支えであり続けたのです。この世にいる誰かに寄り添うことができるなら、ともすれば社会のはみだし者とも言えてしまえるようなアイドル達にも、きっと等しく寄り添うことができる。そう私は考えたのです。
では、そんな彼らの楽曲を、アイマスとの親和性も踏まえて紹介していきましょう。
2. 楽曲紹介コーナー
以下挙げる楽曲は、公式で公開されているビデオクリップがある場合、その動画を挿入してあります。また先日(2019年6月28日)、各種音楽サブスクリプションサービスにおいてBUMP楽曲が解禁されましたので、そちらでも手軽に試聴可能です。
◇アイドル個人に似合いそうな楽曲集
※選出アイドルは完全に筆者の趣味。歪んだ性癖が反映されている可能性があります。
・バトルクライ/1999年
収録:アルバム「FLAME VEIN +1」/2004年
(廃盤除く)
>> 解説
バンド最初期の、荒削りで演奏技術も高いとは言えない、だが何か心を揺さぶるものがあるサウンドから放たれる一曲。弱虫が自分を奮い立たせるためにつくウソを、これでもかというくらいに肯定しています。強がりでも良い。それがいつか誇りに、勇気に、覚悟に、誓いに変われば良いから。
主観ではありますが、弱さを隠し仮面をつけてでもステージに立つ信念を持つアイドル達に似合うはず。最も、そのアイドル達は弱さを曝け出すことを良しとしないでしょうが。
>>似合いそうなアイドル
佐藤心、徳川まつり、黛冬優子
・ランプ/1999年
収録:アルバム「THE LIVING DEAD」/2000年(2004年再販)
(廃盤除く)
>>解説
インディーズ時代のデビューシングル。上述のバトルクライは、このデビューシングルのカップリング曲でした。
一度失った夢や理想を取り戻すために立ち上がる再起の歌。その行く道を照らすランプとなるのは、自らの情熱。全てを失くした時、自身を再び立ち上がらせるのは紛れもない自分自身であると、詩の中の人物は気づいたのでした。
>>似合いそうなアイドル
・リリィ/2000年
収録:アルバム「THE LIVING DEAD」/2000年(2004年再販)
(廃盤除く)
>>解説
BUMPとしては珍しい、ド直球と言っても良いほどのラブソング。虚勢を張ってでもスポットライトの上でカッコつけて歌う“僕”と、そんな僕の虚勢を全て見抜いた上で可愛い人ねと笑う“君”のやり取りから、甘酸っぱくそしてなんとなくむず痒いような青春を感じられます。
その性質から推しカプのイメソンとしても使えそうですが、ここは不器用ながらもいじらしさと実直さを持ったアイドル達に歌って欲しいところ。そんな人達から
こう呼ばせてくれないか 最初で最後の恋人
リリィ/BUMP OF CHICKEN
なんて歌われた日には……死んでしまうのではないでしょうか。(多分に願望が入っている気がしますが)
>>似合いそうなアイドル
多田李衣菜、ジュリア、渡辺みのり、秋山隼人
・ダイヤモンド/2000年
収録:シングル「ダイヤモンド」/2000年
アルバム「jupiter」/2002年
>>解説
メジャーデビューシングル。その記念すべきシングルで描かれた世界は、清々しいまでの「自分の“弱い部分”の肯定」でした。多くの人が自分の持つ弱い部分、嫌いな部分からは目を逸らそうとしますが、その弱い部分に気づき、救ってあげられるのは自分自身ただ一人。大嫌いな弱さを認めて、救ってあげることで強くなれる。
弱い部分 強い部分 その実両方がかけがえのない自分
誰よりも 何よりも それをまずギュッと抱きしめてくれ
ダイヤモンド/BUMP OF CHICKEN
という歌詞にその思いが表れています。
>>似合いそうなアイドル
・ハルジオン/2001年
収録:シングル「ハルジオン」/2001年
アルバム「jupiter」/2002年
>>解説
大人になって捨ててしまったと思っていた夢と希望。枯れてしまった心の花。でも、またそれに手を伸ばそうとするなら、何度だって花は咲くし、何度だって自分の価値は生まれる。枯れても枯れない花、それこそが自らの信念であると、どこにでも咲く花“ハルジオン”になぞらえて歌っています。
実は上述の「ランプ」と類似したテーマを持っていますが、楽曲から受ける印象は全く異なります。あちらは暖かみのあるギターの音色から優しげな印象を受けましたが、こちらは力強いロックナンバー。歌詞も鋭い言葉が並びます。このように、類似したテーマの曲でも与える雰囲気がゴロッと変わるのがBUMPの魅力の一つでもあります。
>>似合いそうなアイドル
安部菜々、白菊ほたる、天道輝、華村翔真
・ホリデイ/2002年
収録:シングル「スノースマイル」/2002年
アルバム「present from you」/2008年
>>解説
誰もが経験するであろう、「起きた瞬間に遅刻を確信した朝」の気怠さが、上手くいかない日々の憂鬱と合わせて独白調の歌詞で綴られています。失敗だらけの毎日でも、それを止めたくなるほどの度胸もなく、そういうものであると割り切れる訳でもない。そんな、“生温い絶望”とでも表現できそうな葛藤が描かれています。
夢の中に逃避したとしても、目の前の現実が変わる訳ではない。失敗続きの人生でも、失敗が一切無い人生など無いのだから、後ろ向きでもそんな日々を受け入れて生きていこう。最後はそう結ばれ、何度か寝返りした後に起きよう、と締められますが、結局歌の間ではベッドから出ることはなかったというオチに。
>>似合いそうなアイドル
舞浜歩、大崎甜花
・fire sign/2004年
収録:アルバム「ユグドラシル」/2004年
>>解説
アルバム「ユグドラシル」は、BUMPを取り巻く状況が大きく変化していく中生まれた、非常に難産でもあったと言える楽曲群であり、同時に音楽性でもバンドとしても転換点になった、ある種象徴的なアルバムです。BUMPを“ユグドラシル以前”“ユグドラシル以降”に分解する流れは根強く、またユグドラシルが最高傑作であると語るファンも未だに多くいます。
そんなアルバムに収録されたこの曲は、実はバンド脱退を考えていたらしいメンバーの増川に向けて贈った*2という、非常にパーソナルな一面があります。*3
特徴的なギターにより奏でられるカントリー風で明るげな曲調とは裏腹に、紡がれる歌詞は非常に重い。ずっと自分の居場所だと思っていた場所には、実は自分の居場所は無かった、という残酷な真実に気がついてしまった、と歌われています。ある種のアイデンティティの喪失を示しているのですね。何故ならそれは、ずっと誰かのために生きていたから。本当の自分の居場所は、自分自身のために生きると強く望まない限り存在し得ない。だからこそ、微かでも見えなくても、自らの命の火を信じて旅立て、という強いメッセージが込められているのです。
>>似合いそうなアイドル
田中琴葉、九十九一希、大崎甘奈
・ハンマーソングと痛みの塔/2007年
収録:アルバム「orbital period」/2007年
>>解説
完全に周防桃子のイメソン。
実はどちらかというと岡崎泰葉と重なる部分が多い。元子役繋がりでもある。
>>似合いそうなアイドル
岡崎泰葉、周防桃子
・透明飛行船/2010年
収録:アルバム「COSMONAUT」/2010年
>>解説
「弱さを隠して生きる」ということは多くの人が経験しているであろうことではありますが、この曲ではそれが「鉄棒が得意だったが、一度頭から落ちてしまいそれ以降苦手になってしまった」という藤原自身の経験に載せて歌われています。
多分平気なふりは人生で わりと重要なスキルだと思う
多岐にわたり効果示すので 使用頻度もそれなり
人の多くはその熟練者で 大概の焦燥は隠せるが
人の多くがその熟練者だ 大概はばれていたりもするが
透明飛行船/BUMP OF CHICKEN
という歌詞は、非常に多くの人に刺さりそうなものであると同時に、普段元気に振る舞いがちなアイドルたちに対しても刺さりそうに思えます。たまには、弱みを見せたって良い。歌はそう語りますが、それはそんなアイドルたちにも投げ掛けてあげたい言葉ではないでしょうか?
>>似合いそうなアイドル
・ray/2014年
収録:アルバム「RAY」/2014年
BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」
>>解説
全面的にシンセサイザーを押し出した、これまでのBUMPからするとかなり異色とも言えるようなサウンドです。この傾向は続くアルバム「Butterflies」でよりEDMを意識した楽曲群へと受け継がれました。プロジェクションマッピングを使用したMVや初音ミクとのコラボなど、様々な点で新境地の開拓が見られ話題となった一曲です。
ライブにおいてもほぼ毎回演奏される、非常に盛り上がる曲ではありますが、実のところ歌詞で述べられている内容はシビア。"ray"とは光線を意味しますが、ここではその光自体ではなく、光によって現れる影に焦点が当てられています。光線が自分を照らすことによって生まれた“影”こそがこの曲の本質なのです。*4ここで言う光線とは過去の思い出のこと。いわば、過去の光によって現在のその先が影となり見えなくなってしまっている状態なのですね。しかし、それでも前に進むためには思い出が必要なのだと、歌はそう強く主張します。何故なら、前を照らす光の始まりもまた思い出だからです。
個人的に、これはハイジョの皆に歌ってもらいたいと思います。純粋に彼らに合ったアップテンポな曲調だからというのもありますが、青春の1ページを切り取ったような彼らにとって、思い出がキーとなるこの曲は最適ではないか?と考えています。
>>似合いそうなアイドル
・white note/2014年
収録:アルバム「RAY」/2014年
>>解説
書いたノートが真っ黒なのに真っ白だったり、デジタル時計がチクタク鳴ったりと、矛盾する表現が目を引きます。それらは歌詞にしたいけど、言葉にならない気持がそのまま歌として流れていっているようで。昂ぶった感情をあるがまま歌に記しているようにも見えます。実際、「そもそも音楽は、音が楽しいもの」という感情が前に来た上で制作されていたようです。*5要するに、歌うことの楽しさがストレートに表現された曲であり、コーラスや手拍子にもその思いが表れています。
ライブでは音ゲー風の演出が成され、筆者含め多くの人が驚いていましたが、その演出にも「皆で歌うことを楽しんで欲しい」という思いがあるのでしょう。
>>似合いそうなアイドル
・Hello, world!/2015年
収録:シングル「Hello, world!/コロニー」/2015年
アルバム「Butterflies」/2016年
>>解説
もともとはアニメ「血界戦線」のタイアップとして書き下ろされた曲であり、歌詞も劇中の演出に沿ったものとなっています。
……なのですが、個人的にこれはそのまま飛鳥に似合いそうであると思っていて。「Hello, world!」というモチーフ自体彼女の目を引きそうですが、それ以上に「自分の心で感じたことが全てであり、それによって世界が作られる」*6という歌詞全体を貫く非常に哲学的な世界観は、彼女を強く惹き付けそうではあります。jewelries!003カバー曲公募の際はこの曲を推していました。
>>似合いそうなアイドル
二宮飛鳥
・ファイター/2014年
収録:デジタルシングル「ファイター」/2014年
アルバム「Butterflies」/2016年
>>解説
「3月のライオン」タイアップとして制作されていた曲で、漫画特装版にシングルが同封されたのち、アニメ版にてエンディングテーマとなっています。
自分の居場所を守るため、大切なものを守るために戦うことの意義が歌われています。紡がれる歌詞は生々しいと思えるほどに直接的に感情を映し出していますが、「戦う者」を表す上で非常に効果的な表現であると思います。
自分の居場所を守るため、自分が自分であるためにアイドルになった者は数多いです。アイドルを続けることこそが戦いであり、そんな者たちもまた同様に「ファイター」と言えるのではないでしょうか。
>>似合いそうなアイドル
岸部彩華、衛藤美紗希、水嶋咲
・アンサー/2016年
収録:デジタルシングル「アンサー」/2016年
アルバム「aurora arc」/2019年
>>解説
こちらも「3月のライオン」タイアップとして書き下ろされた一曲。アニメ版オープニングテーマとなっています。
自分の心の中で生まれた“本当の声”、いわば本当の気持ちに気づいているのならばそれに従うべきである、という思いが全編に渡って描かれています。あの日の思いを忘れなければ、いつだって前へと進めるし、もう迷うことも無い。その思いこそが正しい道を照らしているからです。
>>似合いそうなアイドル
L'Antica
・ジャングルジム/2019年
収録:アルバム「aurora arc」/2019年
>>解説
人は誰しも、心の中に隠した誰にも触れられたくない部分を持っていて。特にアイドルたちは、そういった部分が心を占める割合が多い者をよく見かける気がします。
この「ジャングルジム」は、そういった部分を抱えながらも、どうにか社会と折り合いをつけて生きていく……ということを歌っています。心の深奥は、そうやすやすと触れられるものではありません。それは、自身の担当アイドルであっても、同じユニットのメンバーであっても同じこと。簡単に触れられたら、壊れてしまいそうで、自分が自分でなくなりそうで。だから、時には笑ってみせたり、おどけてみせたりして、誤魔化してみる。それらを本当に共有できる日は、真に分かり合えた日なのでしょう。
>>似合いそうなアイドル
・グッドラック/2012年
収録:シングル「グッドラック」/2012年
アルバム「RAY」/2014年
>>解説
「君」が側からいなくなってしまったことで、「僕」は初めて寂しさに気づきました。
君がいる事を 寂しさから教えてもらった
グッドラック/BUMP OF CHICKEN
とあるように、逆説的ではありますが心に生まれた寂しさこそが「君」がいることを示している、と「僕」は気づきます。それでも、その時感じた寂しさは自分が決して一人ではないという証明でもあります。そしてそれは、「君」にとっても同じ。
君の生きる明日が好き その時隣にいなくても
グッドラック/BUMP OF CHICKEN
常に隣にいることだけが、相手を想うことに繋がるわけではありません。離れていても、君の生きる明日を、君が選ぶ道の先を信じることこそが相手を想うことであると、そう言えるはずです。本当は行って欲しくなくても、寂しさを感じていても、君を想うからこそ、君が隣にいない今日を信じられる。……そんな優しい歌が似合うのは、この人しかいないでしょう。
>>似合いそうなアイドル
◇アイマスの世界観全体に合いそうな楽曲集
ここまでアイドル個人のパーソナリティに沿った楽曲を紹介してきましたが、前述のように人と人との関係性に主眼をおいた楽曲が多いのもBUMPの特徴。そしてそれは後期の楽曲群においてより顕著になります。
ここではそのような楽曲から、アイドルマスターの世界にそのまま挿入できるようなものを紹介していきます。
・ノーヒットノーラン/1999年
収録:アルバム「FLAME VEIN +1」/2004年
(廃盤除く)
>>解説
初期の楽曲は荒々しいまでに直接的な表現がなされたものが多いですが、これもそんな曲の一つ。周囲の期待に押し潰されそうなスラッガーが描かれています。本当はずっと臆病で、今すぐにでも逃げたいのに、いつの間にか誰かに求められ、誰にも甘えられないポジションに就いてしまった。それでも、彼は精一杯の虚勢でそのネガティブな感情に打ち勝とうとします。
普通に生きてりゃ誰だって ライトを浴びる日は訪れる
そんな時誰でも臆病で 皆腰の抜けたスラッガー
という歌詞が指す通り、この歌はスラッガーに限った話ではなく人生における様々な局面での試練へ贈ったものだと言えます。
誰でもライトを浴びる時は臆病で、それはきっとアイドルたちにとっても同じ。虚勢を張って切り抜けようとする彼ら彼女らの、「まかせろ」という“臆病な自分を知って欲しいというサイン”には気づいてあげたいですね。
・太陽/2004年
収録:アルバム「ユグドラシル」/2004年
>>解説
「ユグドラシル」は、全体を通して“存在証明”がテーマとなっています。そのためか、かなりシビアな内容の歌詞が多いのも特徴ですが、これもその一つと言えそうです。
人と人との関わり合いという点から見ると、ここでは歌の中の人物がその関わり合いを完全に断ってしまっている様子が見てとれます。暗闇に引きこもることこそが自分を守る最良の方法である、とでも言うかのように。でも本当は、誰かに自分を受け入れて欲しかった。誰かに触れて欲しかった。そのような思いの中、暗闇から引っ張り出そうとしてくれる者が現れ……。
人は、他者との関わり合いの中で自分という存在を確立する、というのがこの歌の本質であるように思います。他者に触れなければ悲しみはありませんが、同時に喜びも生まれません。闇の中では自分の姿が見えずアイデンティティも朧気になってしまいます。だからこそ、眩しくても、見えなくても、光の中に向かわなければならないのでしょう。
……そんな、闇に溶けそうになっているアイドルを助け出そうとしてくれた人。それは、プロデューサーかもしれませんし、他のアイドルかもしれません。
・メーデー/2007年
収録:シングル「メーデー」/2007年
アルバム「orbital period」/2007年
>>解説
「太陽」にて、闇に消えてしまいそうな者と、それを助け出そうとする者が描かれましたが、こちらは前者がタイトル通り強く救難信号(メーデー)を発しているような構図となります。
BUMP楽曲全体を通して「人と繋がることは難しい」という考えが根底にあるように思いますが、この楽曲でもまた繋がるために心を曝け出すのは怖いことであると歌われています。しかし、それでも構わず心から助けを求める姿と、どこまで潜ることになろうとそれに応じようとする姿からは、二人の間のより深い信頼を感じられます。実は、数少ない公式ラブソングでもあったり。
はてさて、あなたが思い描く、この深い信頼で結ばれた二人は誰でしょうか?
・good friends/2010年
収録:シングル「宇宙飛行士への手紙/モーターサイクル」/2010年
>>解説
他楽曲「東京讃歌」や「歩く幽霊」を思い起こさせる、調子よく奏でられるハーモニカが印象的。
好きになれないものを見つけたら わざわざ嫌わなくていい
そんなもののために時間割かず そっと離れればいい
good friends/BUMP OF CHICKEN
というフレーズが各所で引用されていることから、皮肉めいた曲として知られていますが、本質的には「自分が確立されていないから、どうしようもなく他人が気になってしまう」というのがテーマであると考えています。
「他のアイドルの存在が気になる」というのは、多くのアイドルが抱える問題でもあるのですが、それは成長するにしたがって解消されたり、逆に行動の指針となったりと、各々によって様々です。それら全てをひっくるめてこその「good friends」なのでは、というのは恐らく考えすぎではないはず。
・66号線/2010年
収録:アルバム「COSMONAUT」/2010年
>>解説
徐々に盛り上がる進行が特徴的な、隠れた名曲として知られる一曲。歌詞を文字通り受け取ると直球のラブソングのようではありますが、明言はされていないものの、この歌は藤原が自身のプロデューサーに向けて贈った歌であるようです。*7それを頭に入れた上で聞いてみると、
声を無くしたら僕じゃなくなる それでも好きだと言ってくれますか
ただ一言だけ褒めてください それだけで全てを信じる
66号線/BUMP OF CHICKEN
僕を無くしてもあなたでいられる それでも離れずいてくれますか
ただその掌で撫でてください それだけで心を守れる
66号線/BUMP OF CHICKEN
といった歌詞に込められた思いがより伝わってきそうです。
さて、プロデューサーに贈られた歌であるということは、それに込められた思いはそのままアイドルがプロデューサーに贈るものとして置き換えることもできそうです。
僕にだってきっとあなたを救える 今でも好きだと言ってくれますか
あなたを無くしても僕は生きていく それでも信じていてくれますか
66号線/BUMP OF CHICKEN
歌詞の節々が重なるアイドルは、きっと少なくはないでしょう。
・アリア/2016年
収録:デジタルシングル「アリア」/2016年
アルバム「aurora arc」/2019年
>>解説
本楽曲には「出会い」と「喪失」が内包されています。お揃いの服ではあるけど、別々の呼吸で、どうしようもなく違う生き物である僕らが出会って生まれた気持ちは、結局言葉にすることができないまま、「君」の喪失を迎えることになります。
疾走感に溢れるメロディからは、夢にも似た浮遊感と、それに伴う刹那性が感じられます。「君」と出会い芽生えた、言葉にすることができない気持ちは、「僕」に「いつか終わる魔法」を与えたのでした。
本来、アイドルマスターにおける世界は、「出会い」といつか来る「喪失」によって彩られるものです。この歌で描かれる名付けようのない気持ちは、まさしくアイドルと出会ってから別れるまでの心の動きと重なるものではないでしょうか。
・新世界/2019年
収録:アルバム「aurora arc」/2019年
ロッテ×BUMP OF CHICKEN ベイビーアイラブユーだぜ フルバージョン
>>解説
これは何?
自分は何を聞かされているんだろう。いや「ベイビーアイラブユーだぜ」じゃねーよ。お前そんなド直球のラブソング書けたの?というか眩しすぎて闇が無い。光しかない。ただの光。
……というような具合で、本曲発表時はファンの間で賛否両論の旋風が巻き起こりました。誰が呼んだか、光の藤原。とはいえ、恋が芽生えた瞬間のことを「新世界」と表現するのは非常に藤原らしい、と言えるかも。
難波笑美「吉本のテーマしか聞こえへん」
一点の曇りもないストレートなラブソングです。推しカプにどうぞ。(闇のカップリングには不向きです)
◇番外編:隠しトラック
さてさて、ここまで数々の楽曲と共にBUMPの魅力を紹介してきましたが、ここでまだ語っていないことがあります……それは、隠しトラックです。
彼らがリリースするCDには必ずと言って良いほど盛り込まれている要素なのですが、なんらかの操作をすることで表記された曲以外の収録曲が再生されます。メジャーデビュー以降は基本的に、最後の収録曲の後の長いブランク後に収録されていることが殆どですが、一部インディーズ時代のソフトでは巻き戻すことで音源に辿り着けることも。歌詞カードはCDケースを分解することで現れるという凝りっぷり。
基本的に作詞作曲ボーカルを藤原が担当するメインの楽曲群と異なり、こちらは他のメンバーもそれらの役割で参加しています。どのような役の割り振りかは曲によって異なるのですが、各々の完全なアドリブのみで曲が進行したり、くっそしょうもない一発ネタや下ネタのために藤原の美声があてがわれたり(藤原の無駄遣いとも)、メンバーのガヤだけで曲が進行したり、急にラジオが始まったりとカオスの極み。歌詞もその場の勢いで書いたような支離滅裂なものが多いですが、これ普通にリリースできるレベルだろ、というような名曲が生まれることもあります。
このような部分からも、メンバーの関係の良さが伺え、ファンが毎回楽しみにしている要素の一つでもあります。未だに欠かさず隠しトラックを収録し続けているのには執念じみたものも感じますが。ちなみにこの要素、CD以外に映像ソフトやバンドスコアにも盛り込まれており、毎度毎度手の込んだオマケで楽しませてくれます。気合い入りすぎ。
惜しむべきは、これらの音源は一切配信されていないこと。今となっては入手の難しい音源も複数あるのですが。とはいえ、配信されたとしたらそれは隠しトラックではなくなってしまうのでは?というジレンマも。
このように複数の魅力を持った隠しトラックですが、その中には各アイドルに似合いそうな楽曲もありまして……
・オゴマメ/2000年
収録:シングル「ダイヤモンド」/2000年
>>解説
全編ギターのみで進行しますが、メンバー全員の歌唱により繰り出される歌詞は「酔っ払った状態で書いたのか?」と言いたくなるほど狂気の一言。
それもそのはず、歌詞カードによれば、設定上は巨人ソドップと呼ばれる謎の種族による演奏を、探検隊が決死の覚悟で収録したものだそう。だから人間には理解し難い言語で綴られているのだという……でもこれ思いっきり下ネタ入ってない?
ベロンベロンに酔っ払った大人組が急に歌い出したらとても面白そうです。
>>似合いそうなアイドル
成年組
・new world サミット/2009年
収録:シングル「R.I.P./Merry Christmas」/2009年
>>解説
こちらは普通にリリースしても良いのではないか?という完成度。増川による作詞。
「どこの国に生まれたとしても、生き方は自分で決められるなら幸せになれるはず」という、非常にポジティブなメッセージを愉快な歌詞と共に綴っています。升の歌唱パートは必聴。
無邪気ながらも確かな力が込められた印象が強い本楽曲。そのような人たちに是非歌ってもらいましょう。
>>似合いそうなアイドル
ぷちっとナイン、放課後クライマックスガールズ
・三人のおじさん/2010年
収録:シングル「魔法の料理 〜君から君へ〜」/2010年
>>解説
はるか昔の、有名な三人のおじさんの長い長い旅路を歌った英雄譚。その結末が、三人の望んだ結果でなかったとしても、彼らの軌跡は永遠に語り継がれるものとなるだろう……
隠しトラックの中でもかなり有名な方なのでは?と思える一曲。某動画投稿サイト等ではこれをモチーフにしたものも多くあります。他に有名な隠しトラックとしては、FLASH動画が作られた「星のアルペジオ」が挙げられるでしょうか。(「星のアルペジオ/百瀬莉緒」を考えてはいましたが流石に自重しました)
三人のおじさんユニットということでまんまS.E.Mを推薦したいところ。打ち上げの二次会とかで歌わされてそうではありますね。
>>似合いそうなアイドル
S.E.M
……ところで、先日ミリシタにて「ランニング・ハイッ」のイベントが開催されていましたが。
いや完全に三人のおじさんやん。
・DANNY/1999年
収録:アルバム「FLAME VEIN +1」/2004年
(廃盤除く)
>>解説
メンバーの高校時代に作詞作曲されたという、BUMPとしては最古の楽曲。もともとデモテープ等で配布されていた過去があるので、厳密には隠しトラックとは言えないかもしれません。唯一ライブで演奏されることのある隠しトラックです。全編英歌詞。
拙い英語で繰り出されるのは、マヌケだけど古き良き友人である愛犬“DANNY”の奮闘。とにかく疾走感に溢れたサウンドからは、バンド黎明期の不器用ながら力強い印象が伝わってきます。
曲の背景からも、バンドのカラーからしても、ハイジョの面々にこれ以上無いくらいマッチしそう。彼らの演奏するイメージが容易に浮かびます。
>>似合いそうなアイドル
3. おわりに
約1万6千字にわたる拙い文章をここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。物量に任せてひたすらオタクの妄言を重ねてきましたが、一つでも刺さった曲があったり、確かにこのアイドルのイメージに合いそう、という感想を抱いてもらったりしていただけたなら幸いです。
なるべく満遍なくアイドルや楽曲をチョイスしてきましたけれども、本当はもう少し限界な解釈をしたアイドル選出や、曲自体の解釈よりもアイドルのパーソナリティを重視した選曲*8も考えてはいたのですが……そこはまた機会があれば。
……ところで。
冒頭に記載した、ライブツアー公演であるaurora ark、その中のメットライフドーム公演での終わりのMCにて、藤原のとても印象的な言葉がありました。
みんなが辛い時、苦しい時に、俺たちの歌を聞いて立ち直ってもらえたら嬉しい、なんて無責任なことは言いたくない。でも、そんな状況になった時、俺たちの歌を頭の片隅に置いてくれたら嬉しい。
BUMPの根底にある考え方として、「立ち直るのは自分自身である」というものがあります。
例えば、あなたが悲しい気分に沈んでいる時、BUMPの楽曲を聞いて、再び立ち上がる勇気を貰ったとしましょう。その時、「立ち上がる」という選択をしたのは、間違いなくあなたです。あなたは、BUMPのおかげであると思う前に、再び立ち上がることを決めた、他でもないあなた自身を誇りに思うべきなのです。
この考えは、アイマス全体に適応できるものだと思っていて。どんなアイドルも、いつかはプロデューサーから離れて、自身の道を行くことになるのでしょう。いつか来るその日のため、自分で歩いていける力を身に付けなければなりません。それができるようにアイドルたちを導いていくのが、プロデューサーの役割、ロールプレイと言う名のおままごとの在り方なのだろうと、私はそう考えています。
アイドルが困難を前にして再び立ち上がり、新たな成長を見せてくれることは多々あります。そんな時、「プロデューサーが支えてくれたおかげ」と思うのでなく、まず先に成長した自分自身を誇りに思ってほしい。私はそう強く思うのです。むしろ、立ち上がったアイドルの姿を見て勇気を貰っているのは、私の方でしょうから。
……この終わりの文が無ければ、「アイマスに託けてBUMPの布教記事書きたいだけやろ」と言われても言い返せませんでしたね。長々とお目汚し失礼致しました。
(ロタツ)
*1:最も、これらの発言はライブMC中に出たものであり、今となっては明確なソースが無いようですが。
*2:増川弘明(2004) 『ROCKIN’ON JAPAN』2004年1月号 ロッキング・オン
*3:増川が脱退を考えていた、というのは憶測ではありますが、ギターのスキル不足を公言していたことや、当時の各種インタビューによりそう考えられていることが多いです。
*4:藤原基央(2014) 『ROCKIN'ON JAPAN』2014年4月号 ロッキング・オン
*5:藤原基央(2014) 『MUSICA』2014年4月号 FACT
*6:藤原基央(2015) 『CUT』2015年6月号 ロッキング・オン